奮戦記:大事なのは1日なんぼ稼げるか?
前回までのあらすじ(プロに近いトレードルールを求めて)
インジケータをいくら弄り回しても、答えから遠ざかることに気づいた我々は、原点に戻り、為替和尚の考え方に最も近いトレードルールを
練り直した。
エントリーポイントを確認するためのインジケータを、師匠の為替和尚に確認してもらった吉田は、これを元に自動トレードシステムの開発に着手する。MT4の開発環境の効率の悪さ、最終的に自動トレードを運用するシステムの関係上、MT4のEA(自動売買プログラム)ではなく、Visual Studio2005(プロ向け開発ツール)上での開発を決断した。
自動売買のロジックのパフォーマンスを確認するには、検証ソフトを使ってチェックする必要がある。この作業を「バックテスト」といい、過去のデータを使って、利益が出るかどうかを確認する大事な作業である。
自動売買の場合、過去データで結果が出るかを確認するための「バックテスト」と、そのルールで将来も成績が出ることを確認するための「フォワードテスト」がある。
当たり前だが、過去データを使った「バックテスト」で成績の出ないトレードルールは、勝てないルールと判断していい。MT4を使う場合、このバックテストをするためのツールが「ストラテージテスター」である。
今回、吉田はMT4を使わずに開発したので、ストラテージテスターに相当する検証用のプログラムを自作した。この結果が出たのが2010年5月末のことである。
そこで出た数字はただただ、目を疑うばかりであった。
驚愕の事実! P.F 4.0
「えらいこっちゃ」
新ルール「トレーティングエッジ」の検証結果を見た師匠(為替和尚)はそうつぶやいた。吉田は、ユロドル(EUR/USD)とポン円(GBP/JPY)の検証結果のキャプチャ画像を師匠に見せた。
※当時の画像から抜粋しているので、検証期間が多少ずれています。
師匠「吉田っち、これエグいなぁ。プロフィットファクター(P.F)が4.0超えてるやん。勝率は6割強か」
吉田「P.F 0.6であうあう言ってた頃が懐かしいくらいの信じられない数字ですね。ちなみに、勝てるシステムと言われているものは、P.F 2.0ぐらいみたいですよ」
師匠「P.Fも大事だけど、俺らで一番大事なのは、1日なんぼ稼げるかや。それはわかる?」
吉田「その数字も出しておきましたよ。右端の黄色い枠内のpips数が一日の収益となるpips数です」
師匠「ポン円で、280.4pipsってあるやん。1日280pipsも稼いでるの? かなわんなぁ」
吉田「10枚張りで、1pips=1000円で計算すると、1日あたり28万円稼ぐことになりますね」
師匠「ドローダウン(損失金額)はどうや?」
吉田「ここです。ポン円の場合で、1回あたりのトレードの平均損失が11.9pips、最大で33.5pipsの損失。で、連敗をふくめた最大損失が60.3pipsです」
師匠「吉田っち、これホンマにあってる? なんか恐ろしくなるわ」
吉田「エントリーと決済のポイントについては、MT4に出力させてインジケータと一致することも確認してますよ」
電話での打ち合わせは、30分くらいで終了した。
とにかく、2人は自作の検証ソフトで出た数字にただただ驚愕するだけだった。
「トレーディングエッジ」のルールは、基本的にドテンを狙うものであるが、たまたま準備シグナルがブレイクアウト直前にも点灯することに気づき、ブレイクアウトも狙えるシステムとなった。
「ブレイクアウト」と「ドテン」。
相場の2つの主要な流れをとれるシステムなら、このぐらいの数字が出ても不思議ではない。負けている箇所をチェックすると、ボラティリティが不足するレンジ相場だった。
相変わらずレンジ相場の問題はあるが、それ以外の相場で十分なプラスになっているので、レンジ相場の負け分は
必要なコストとして納得
することにした。
今回の結果を踏まえた上で、2010年6月に再び師匠の家に集まり、会議をすることになった。
なお、師匠が自動トレードで重視していたのは、
プロフィットファクターではなく、
あくまでも1日なんぼ稼げるか?
である。1日に稼ぐ金額をベースに考えるのが、トレードで飯を食っていくものが常に意識すべき点だと師匠はいった。
有頂天
バックテストの結果とはいえ、期待以上の数字が出たことで、
吉田と師匠はひと安心した。
そして、今後の動きを決めるため、2010年の6月に大阪の師匠の家に集まって会議をすることになった。今回集まったのは、ともワンをいれた3人。
師匠「なぁ、吉田っち。ちょっと真剣に考えてみたら恐ろしくなってな」
吉田「なにをですか?」
師匠「いや、この自動トレードソフトを使えば、だれでも簡単に1日20万稼げるやん。銀行営業日ベース22日と考えても400万はカタイやん」
吉田「稼げるならいいじゃないですか」
師匠「20万といえば、サラリーマンの月収に相当する。それだけの大金をまだ仕事もろくに出来ない若造が、サラ金から100万借りてきて稼いだとしたら、そいつの人生狂うで」
吉田「ファイナンシャルインテリジェンスを身につけてないから、そうなる可能性はありますね」
師匠「それを俺のツレに言ったら、”アホか! 実際に稼いでから心配しな!”と言われたわ」
吉田「取らぬ狸の皮算用ってやつですからね。」
師匠「吉田っち、パラメータ弄るにはどうすればいい?」
師匠は、吉田の作った検証ソフトをいろいろといじくり、パラメータを変更した時に数字がどう変化するかを、まるでおもちゃを与えられた子供のように楽しんだ。
ひととおりいじくり回すと、師匠は「吉田っち、パラメータはこれで決まりや!」と言った。師匠の設定したパラメータは、利益の面では最良とはいえないが、最大損失を出来る限り抑えたものだった。
長く安心して任せられるシステムが必要やで。そのためにいかにリスクを減らせるかのほうが重要や
1日あたりの利益よりも、安全性が大事。専業トレーダーではないにせよ、実際トレードで飯を食ってきた人の言葉は重い。
- プロフィットファクター(P.F)より、1日あたりの利益が大事
- 利益よりも、リスクの軽減が大事
師匠は、実際の裁量トレードで自身が重視しているポイントを吉田にかいつまんで説明した。
自動トレードの話は尽きず、目の前に出ている数字の大きさから、明るい話題ばかりだったが、ともワンの何気ない一言で、空気が変わった。
ともワン「そういえば、1番のシグナルって、リペイントがかかるんですけど、どう対処しました?」
吉田「リペイント?」
師匠「そや、高値安値が更新された時、1番の位置が変わるんやで」
吉田「えっ!? なにそれ?」
師匠「……。ちょっと、チャートみよか」
実際に動いているチャートを見ながら、師匠はエントリー用のインジケータを見ながら説明した。確かに、高値や安値が更新された時、前に1番が表示されていた箇所が消え、新しいところに置き換わる。
吉田は動いているチャートをじっくり見ていなかったので、もともとのインジケータに「リペイント」の問題があることにまったく気づいていなかった。
師匠は知っていたが、リペイントの問題を吉田に告げてはいなかった。
というより、伝えなくてもわかるやろ? といった感じかもしれない。
吉田は2人に「リペイントされると、1番をベースに組んでいるので、自動トレードの成績が大きく変わりますね」と告げると、ともワンは「じゃあ、俺らがやってきたことは、まったくの無駄だったわけですか…」といった。
黙って腕組みしながら、2人のやり取りを聴いていた師匠は言った。
無駄なことなんてあらへん。
問題があるなら、解決するまでや!
天国から地獄へ
1日200pips稼げるという数字を見て、有頂天になっていたが、そもそもインジケータが抱えている問題がそのまま残っていたことを知った3人の心境は、まさに「天国から地獄」に叩き落された感覚だった。
用事があるため帰ったともワンがいなくなったあとも、吉田と師匠はチャートを見ながら対策を検討した。
とは言え、2泊3日の日程で結論が出るまでもなく、いくつかの懸案事項を紙にまとめ、それぞれ対策を検討することで大阪出張は終わった。
開発の効率化、また実際の運用を視野に入れてMT4の検証ツール(ストラテージテスター)を使用しなかったが、潜在的に抱えていた問題に気づかず、机上の数字に一喜一憂してしまった。
だが、まったく先が見えないわけではなく、一度は驚異的な数字で証明されたものである。闇の中で手さぐりしている状態よりはマシだと思った。
天国から地獄の気分はよく分かります。
自分も1ヶ月で1万スタート1億突破の神手法出来たと思ったら、今回の記事と同じようにインジの後出し状態でした。
最近ではどうやってもそんなに神な手法は出来ないと考えて、テストで良すぎる結果が出たら粗探ししてますw
システムトレード構築者として開発記が一番面白いです。
これからも更新頑張ってください。